免税事業者がインボイス制度でとるべき対応について
(2021/3/17)
インボイス制度というものが始まることをうっすらと知ってはいるけど特に何もされていない会社・個人事業者は多いと思います。
法人税や所得税の確定申告は毎年しているけど消費税の確定申告はしたことない事業者も多いと思います(消費税の確定申告なんてあるの?って思った人もいるかもしれません)。
実際、事業が小規模の場合には消費税の確定申告をする必要がない事業者も多いです。そういう事業者を「免税事業者」と呼びます。
免税事業者は基本的には消費税について特に何も気にする必要はなかったんですが、インボイス制度が始まると免税事業者も大きな影響を受ける可能性があるので、残念ながら無視するわけにはいきません。そして、2021年の10月から「とある登録」の受付が開始されます。あとで説明しますが、免税事業者もその「登録」をしないといけなくなるかもしれません。
そもそも消費税の確定申告ってどんな感じ?
法人税や所得税の確定申告をしているとわかると思いますが、法人税や所得税は利益に税金がかかります。例えば1年間の売上が550万円で経費が330万円なら利益は220万円です。この利益の220万円に20%とかの税率をかけて法人税や所得税を計算します。では消費税はどのように計算するのでしょうか?同じように売上が550万円で経費が330万円だとすると、この中には消費税はいくら含まれているでしょうか?消費税は今は10%なので売上550万円の中には50万円、経費330万円の中には30万円の消費税が含まれています(全ての取引に消費税が含まれるわけではないのですが、ここでは簡単に考えておきます)。ここで先程の利益と同じような考え方として、売上の消費税50万円から経費の消費税30万円を引くと「消費税の利益」は20万円です。この消費税の利益20万円を(法人税や所得税と同じように)税務署に支払うことになります。すごく簡単に言うとこれが消費税の確定申告の作業です。
免税事業者は消費税の利益を無視していい
免税事業者は消費税の確定申告をする必要がありません。なので、上で説明した消費税の利益20万円は税務署に支払う必要はありません。なぜ確定申告をしなくていいのかというと、免税事業者は小規模な事業をしているからです。1人で会社を経営しているとか個人事業でフリーランスで1人で仕事をしているような人は法人税や所得税の確定申告だけで精一杯です。消費税の申告も追加されると作業がとても多くなるので例外的に消費税の確定申告はしなくていいですよというルールが作られているのです。さて、小規模な事業というのはどのくらいの規模でしょう?基準となるのは1年間の売上が1000万円を超えたことがあるかどうかです。超えたことがないなら多くの場合は免税事業者になると思います(他のルールもあるのですが、一番大きなルールはこの1000万円のルールです)。免税事業者の場合、上で説明した利益20万円は自分のお金として銀行等に入れておいて構いません。単純に得するということです。
消費税の確定申告と免税事業者がどういうものかはわかりました。次にこれから始まるインボイス制度について説明します。
インボイス制度って?
インボイス(invoice)というのは請求書のことです。お客さんにお金を請求する際に請求書を作成して送るあれです。それでインボイス制度というのは簡単に言うと「ちゃんとした請求書」を作成しないといけないというルールです。上で説明した消費税の確定申告をしている事業者を例に見てみましょう。売上が550万円で経費が330万円ですが、経費330万円には消費税(10%)が30万円含まれています。これは消費税の利益を計算する上では経費になるものですね。売上の消費税50万円から経費の消費税30万円を引いた20万円を税務署に払うわけですから、税金を少なくしてくれる経費の30万円は事業者にとっては重要です。さて、この経費330万円は当然この事業者が誰かに支払ったものです。つまり誰かから請求書が送られてきたわけです。インボイス制度では、その「誰か」は「ちゃんとした請求書」を作成しないといけなくなるのです。なぜなら、「ちゃんとした請求書」でなければ、経費の消費税30万円は経費として認められなくなってしまうからです。経費として認められなくなると、売上の消費税50万円をそのまま税務署に支払うことになってしまいます。これはかなり損しますね。それで、「ちゃんとした」請求書というのは、免税事業者「以外」が作成した請求書のことです。つまり免税事業者が作成した消費税では、支払う側の立場から見た経費が経費として認められなくなってしまうのです。これは支払う側からしたらとても困ることです。「ちゃんとした請求書」と免税事業者が作成した「ちゃんとしてない請求書」があったとします。経費の金額は両方110万円です。同じ商品・サービスにお金を払うとして、支払う側はどちらの請求書がいいかと言うと当然「ちゃんとした請求書」です。そうなると免税事業者とは取引しない事業者も出てくるかもしれません。
ちなみにですが、「ちゃんとしてない請求書」が経費として認められなくなるのは「徐々に」です。2023年10月からは20%が認められなくなり、2026年10月からは50%が認められなくなり、2029年からは一切経費として認められなくなります。まだ先と言えば先ですね。
免税事業者はどうすればいいのか?
インボイス制度が始まったら免税事業者がまず考えないといけないのは、自分の売上がどのような人たちで構成されているかです。困ることになるのは消費税の確定申告をしている人です。よって、免税事業者の対策としては次のようなことが考えられます。
- 請求書を送り先は消費税の確定申告をしている会社が多いので、自分は免税事業者をやめて「ちゃんとした請求書」を発行できるようにする(免税事業者は希望すれば免税事業者以外になることが可能です)→消費税を税務署に払うことになるのでその分損をすることにはなります。
- 請求書を送り先は消費税の確定申告をしている会社が多いので、請求する代金を値引きして自分は免税事業者のままにする→値引きの分だけ売上は減ります。
- 請求書を送り先は免税事業者(事業をしてない消費者も含む)が多いので、自分も免税事業者のままでいい→これまでとあんまり変わりませんが、一部の免税事業者以外が困るのと、将来の取引候補が免税事業者中心になるリスクがあります。
このように、どのような場合でも免税事業者にとってはインボイス制度はいいものではありません。しかし、これまでは消費税をそのまま自分のお金にすることが出来ていたのがむしろおかしかった、と考えるべきなのかもしれませんが….。ちなみにですが、簡易課税という昔からあるルールを考慮すると上記の対策はさらに複雑なことになります(複雑なのでここでは省略します)。免税事業者だから消費税のことは一切考えていなかった人もこのインボイス制度は無視できないことがわかったと思います。自分の大切なお客様を困らせることにもなりかねませんので。
「登録」って?
最初に言った「とある登録」というのは、免税事業者をやめて「ちゃんとした請求書」を発行できるようになる手続きのことです。その受付が2021年10月から始まります。実際にインボイス制度が始まるのは2023年なのでまだ先なんですが、免税事業者を続けるのかやめるのかはあらかじめ考えておく必要があるでしょう。もしかしたら(消費税の確定申告をしている)お客様から事前に質問があるかもしれません。その時に「まだ何も考えてません」とはなかなか言いにくいですよね。
おわりに
インボイス制度が免税事業者に与える影響はとても大きいです。免税事業者にとっては増税や軽減税率とは比べ物にならない影響があるようにも思います。よって、事前にどのような対策をするべきかは十分に考える必要があります。インターネットでインボイス制度について調べると、(これまで消費税を気にする必要がなかった)免税事業者にとっては難解な説明が多かったように思います。仕入税額控除って言われても理解するのはなかなか難しいはずです。そこで、このブログでは可能な限り専門用語を使わずにわかりやすく説明することを心がけました(なので、「消費税の利益」とか「ちゃんとした請求書」と言った用語はありません)。インボイス制度について詳しい情報が必要なら国税庁のサイトを見てみると良いと思います。何か質問があればお気軽にご連絡ください。
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