(2020/8/31)

魔法陣会計クラウドを他のクラウド会計ソフトと比較してみました

はじめに

こんにちは。税理士の小林です。最近多くの会社からクラウド会計ソフトが提供されていますね。特に有名なのはFreeeやMoney Forwardクラウドで、実際この2つでかなりのシェアを占めていると思います。新しく会社を設立したり、個人で事業を始めた場合には、基本的には何らかの会計ソフトを使うことになります(もしくは会計事務所に丸投げ)が、FreeeやMoney Forwardクラウドのどちらかで考えている人は多いと思います。実際、ネットでクラウド会計ソフトを検索してもこの2つがお勧め(比較)されている記事がほとんどです。それではこの2つしか選択肢はないのかと言うとそんなことはありません。有名ということで使用している人が多いのは間違い無くこの2つのソフトですが、いわばクラウド会計ソフトの「ジェネリック(医薬品)」のようなものはそれなりに多く登場しています。ジェネリックのメリットは価格がそれなりに安いことだと思いますが、この記事でレビューする魔法陣会計クラウドも価格の面でFreeeやMoney Forwardクラウドよりも有利な場合が多いです(あまり差がない場合もあります)。そこでまずは料金比較をしてみたいと思います。

※魔法陣というのは、基本的には税務(確定申告)ソフトを中心に提供している会社で、あまり一般には知られていないかもしれませんが、公認会計士や税理士の中では知らない人はいないくらい知名度のある会社です。なお、当事務所は魔法陣会計クラウド他との利害関係は一切ありません(念のため)。

 

料金比較

各ソフトの最も安い料金で比較してみます(2020年8月31日時点の情報です)。※複数の支払い方法(月払いや年払い)がある場合には料金が安くなる年払いを選択することとします。

会計ソフト 年間コスト(税込)
魔法陣会計クラウド (個人・法人) 13,200円
Freee (個人) 15,576円
Freee (法人) 26,136円
Money Forward (個人) 10,560円
Money Forward (法人) 39,336円

ソフトの機能面などはかなり違う部分もあるので料金だけ比較することに意味があるのかと思ったりもしますが、法人の場合には料金面でそれなりに差がありますね。機能面なども考慮すると、個人の選択肢としてはFreeeかMoney Forward、法人は「場合によっては」魔法陣会計クラウドも良いのではないかと個人的には思います。ではどういう場合には魔法陣会計クラウドが良いのかについて考えてみます。

 

魔法陣会計クラウドは選択肢のひとつになるのか?

有名なFreeeやMoney Forwardを使っておけば良いじゃないかというのは確かにそうです。ですので上記のような料金の差が全く気にならないのであれば、正直魔法陣会計クラウドを使う必要はないかもしれません。特に個人事業をされている方にとっては料金面でほとんど差はありませんので、FreeeやMoney Forwardで良いと思います。しかし法人に関しては、次のような場合には魔法陣会計クラウドを検討する価値があるのではないかと思います。

  1. 会社を複数経営している場合(会計事務所の方含む)
  2. FreeeやMoney Forwardの機能を使いこなしている自信がない場合

1は主に料金面のことを指しています。下記は魔法陣の公式ホームページ記載の料金表です。

作成データ数というのは、法人の場合は法人の数のことを指していますが、例えば5社の法人を経営している場合の5社分の年間の料金は26,400円(税込)です。FreeeやMoney Forwardの1社分よりも安くすみます。FreeeやMoney Forwardは会社数分の料金が追加で発生しますので、上記のそれぞれの年間コストの5倍の料金になります。Freeeの場合には130,680円、Money Forwardの場合には196,680円です。この場合には料金面でかなりの差がありますね。会社が増えれば増えるほど料金の差は大きくなります。会社を何社も経営している人はそんなに多くないかもしれないので、どちらかというと会計事務所に使用してもらうことを想定している料金表なのかもしれませんね。会計事務所は(規模にもよりますが)100社から200社のデータを扱うことも普通にあります。

次に2についてですが、FreeeやMoney Forwardの様々な機能をあまり使っていない人は魔法陣会計クラウドを検討する価値があると思っています。実はFreeeやMoney Forwardは会計ソフトではありますが、その他にも色々な機能がある「ERP」であると言えます。ERPというのは会社の(バックオフィス)業務全体を管理することを指し、例えば従業員の経費精算や請求書発行、給与計算などを行うことが出来ます。ですので、FreeeやMoney Forwardは会計ソフトの機能以外にも会計ソフトと連動して様々な業務を効率よく行うためのソフトであると言えます。一方、魔法陣会計クラウドは、一通り見たところ、一般的な会計ソフトによくある機能があるというイメージです。まだ新しい会計ソフトなので今後機能が追加されることも想定されますが、機能面ではFreeeやMoney Forwardと比較するとかなり異なると言えます。では魔法陣会計クラウドは使えないのかというと、そういうわけではありません。むしろ、FreeeやMoney Forwardに使用しない機能がたくさんある場合には、料金が安い魔法陣会計クラウドで十分である場合もあると思います。極端な例としては、社長1人で他に従業員がいない会社の場合には魔法陣クラウド会計でも十分な可能性が高いと言えそうです。社長1人であれば、経費精算や請求書発行などの業務は他のソフト(例えばエクセルなど)で行っても問題ない場合が多いと思います。特に会社を設立して間もない頃であれば、コストをなるべく抑えたいこともあると思いますので、魔法陣会計クラウドは選択肢の一つにしても良いのではないかと思います。なお、会社がある程度成長してから会計ソフトを変更しても全く問題ありません(手間は少しかかりますが)。

 

魔法陣会計クラウドの気になるところ

ではいろんなERP機能をあまり使用しない小規模の会社は魔法陣会計クラウドで良いのかというと、そういうわけでもなく、気になる点も少しあります。細かいところではいくつかありますが、最も気になるところとしては、魔法陣クラウド会計では「経理の自動化」が難しいということです。FreeeやMoney Forwardは基本的な機能として、銀行口座やクレジットカードとのデータ連携が可能です。これは、日々の経理作業をある程度自動で行ってくれるものですので、上手く使うことができれば、(面倒な?)経理業務に使う時間を削減することが出来ます。魔法陣クラウド会計は、(現時点では)そういった機能はありません。従って、全ての経理作業を手作業で行うことになります(よくある取引をあらかじめ登録するなどの機能はありますが、自動化できるとまでは言えません)。なので、社長1人であっても、日々の取引の数(量)が多い場合には魔法陣会計クラウドはあまり良い選択とは言えないかもしれません。

他に気になったところとしては、帳票などのデータがPDFでしか出力できないことです(私が知る限りでですが)。経理作業を日常的に行なっている方はわかると思いますが、入力したデータはcsv形式等でエクスポートして加工できるということが様々な業務上重要になることも多いのではないかと思います。正直、この機能は後ほど追加されるのではないかと思うので、今後のアップデートに期待です。

 

(ちなみに)英語化は可能なのか?

以前、日本の会計ソフトを英語化する方法についての記事を書きましたが、魔法陣会計クラウドでも簡単に試してみました。結論としては、一定のレベルまでなら出来るかなというのが正直な感想です。例えば、勘定科目を会議費/Meetingにするなど、です。他のよくある会計ソフトと比較して特段英語化しやすいということはないと思います。

 

まとめ

魔法陣会計クラウドは2019年にリリースされたまだ新しいサービスです。2021年3月まで無料で使えるということもあり、今はテスト段階ということもあるかもしれませんが、現時点でも一般的な会計ソフトの機能は有しており、法人については、(場合によっては)クラウド会計ソフトの選択肢になり得ると思います。主に料金面ではFreeeやMoney Forwardよりも低く抑えられる点が魅力です。今は無料で使えるということもあるので、例えばですが、2020年に設立した(決算が主に12月)の会社で、会計ソフト選びに悩んでいるような場合には、とりあえず試しに魔法陣会計クラウドを使ってみるのも良いと思います。