(2020/9/13)

外資系企業で経理として働くために必要なスキル・経験とは?

こんにちは。税理士の小林です。外資系企業ってなんだか憧れがありますよね。誰もが知っているAppleやGoogleなどの超有名企業で働けれたら楽しいだろうなと考えたことがある人は多いんじゃないかと思います。(イメージですが)やりがいのある仕事をやって、給料は高くて、尊敬できる仲間たちと休憩中(時には仕事中にも)には会社でビリヤードとかしたりして…なんてことを想像してしまいますね。私の場合は。有名な企業がどのような職場環境なのかはネットで検索すればある程度はわかりますので、是非皆さんも素晴らしい(と思われる)職場環境で働く自分を想像してみて欲しいなぁと思います。

さて、どのような会社にも共通することですが、ある程度の規模の会社には必ず経理の人はいると思います。なので外資系企業にも経理の人はいます。そこで疑問に思うのが、どのようなスキルや経験がある人が外資系の経理で働くことができるのか、ということです。ちなみに私は会計事務所の人間ですので、外資系企業の経理の正社員として働いていたわけではありません。しかしながら、過去、現在も含めて様々な外資系企業の方々と関わっています。実際に外資系企業の経理のお仕事をかなり近くから見てきました(作業を実際にお手伝いすることも多く、それが会計事務所のサービスそのものでもあります)。どのような方が外資系企業の経理として働いていたかも見てきました。英語力や経験年数、簿記の資格など考えられることはいくつかあります。今後のキャリアとして外資系企業の経理で働くことを考えている人や外資系企業の採用担当者の方にとって参考になったらと思い、整理してみました。

なお、最初にAppleやGoogleとか言いましたが、そのような超有名大規模な外資系企業を想定しているわけではなく、そこまで大きくない(イメージとしては20名くらいまでの会社)外資系企業の経理を想定しています。外資系企業にも色々あり、あまり名前が知られていない外資系企業も日本にはたくさん存在しています。あと、想定している経理のレベルとしては、責任者や管理職というよりも、これから外資系の経理としてのキャリアを考えているレベル(ジュニアやシニア)を想定しています。

 

「外資系企業」って何?

人によって多少考え方は違うかもしれませんが、外資系企業というのは外国の会社がお金を出して作った日本の会社というくらいのイメージで良いと思います。厳密な定義はここではあまり重要ではないので。英語が必要な会社とか外国人がたくさん働いている会社というくらいで考えましょう。(調べてませんが)東京に多く存在しています(はずです)。

 

必要なスキル・経験は?

まず結論を言いますが、会社の外部の経理の専門家という立場から考えた結果、次のスキルや経験があると、外資系企業の経理業務(ジュニア・シニアレベル)をある程度スムーズにこなせるのではないかと考えます。

  • 簿記3級
  • 英語力(レベルはかなり会社により異なる)
  • エクセルを中心としたPCスキル
  • 上記3つのスキルを活かして仕事をしてきた経験(これは当然ですね)

一つ断っておきたいのですが、例えば「人柄」や「やる気」、「年齢」や「性別」といったことは一切考慮していません。実際に外資系の経理として働くにあたってはそういったことも考慮されるかもしれませんが(それがいいかどうかは別として)、今回はあくまで外資系企業の経理として働く人が求められる(であろう)具体的なスキル・経験を考えますので、どうしたら採用されやすいのかといったことは基本的には考えていません。そういう意味では、外資系企業で実際に行う業務と上記のスキル・経験は密接に関連しているのではないかと考えます。

 

(日商)簿記3級

正直これは当たり前といってもいいかもしれませんし、外資系企業特有のものでもなく、外資系ではない会社の経理でも間違いなくあった方がいい資格だと思いますが、外資系企業でもやっぱり必要と言えるでしょう。ちなみに勉強はしたが実際に試験は受けていないというケースもあるかもしれませんし、実務を通じて簿記3級レベルの知識は有している、という場合もあるかもしれませんが、まだ経理としてあまり経験のない方は資格としてしっかりとっておいた方がいいと思います。採用にも多少は影響があるでしょう。

経理の仕事というのは、「知っているか、知らないか」ということが仕事にかなりの確率で影響してしまいます。他の職種よりも知識が重視される(されてしまう)と思います。経理の基本は「仕訳」です。経理の仕事をしていて「仕訳」がわからないと仕事が出来ません。「仕訳」は正直です。「仕訳」はデータとして入れると記録に残りますし、入れなければ(もしくはわからなければ)記録には残りません。悲しいことに、記録に残さないまま経理の仕事を完結させることは不可能です。そうなると、「仕訳」の知識があるというのはとても重要です。「仕訳」というのは(一定の範囲内においては)世界共通の知識・ルールがありますので、外資系企業でも日本の企業でも重要です。ありがたいことに、それを簿記3級で勉強できるのです。簿記3級は仕訳の基本編ですが、それでも知識があるのとないのとでは大きな違いがあるでしょう。そう考えると、簿記3級の資格はグローバルな資格ですね。2級以上が必要かと言われれば、あった方が良いけれど他のスキルをまず磨くことをお勧めするかもしれません。

ちなみに、外資系企業は海外の仕訳のルール(会計基準)を適用している場合があります。そうなると海外のルールであるIFRSやU.S.GAAPとか色々知っておかないとまずいんじゃないかと考える人もいるかと思います。実際に見てきた経験から言うと、ある程度立場が上の人であればもちろん必要になるでしょうが、これから外資系企業の経理で働こうと考えている人は入社してからでも十分ではないかと考えます。会社で必要になる会社特有の知識は入ってからでも十分という考え方です。その場合、包括的に海外の会計のルールの勉強をする必要があるのかというと、ない場合も多いはずです。

 

英語力

まさしく外資系企業らしいスキルですが、正直必要ないところもあればかなり必要なところもある印象です。外資系企業はあくまでも日本の企業です。社員の9割が日本人の会社もあり、日本語しか使用しない会社も多いでしょう。逆に外国人が多い会社もありますので、その場合はかなり英語力が必要な場合もあります。経理という仕事にフォーカスすると、英語が必要になることはそこまで多くない印象です。それは、会社の偉い人(役員等)や営業担当者と比較するとあまり英語は必要ないということです。一つの理由として考えられるのは、経理担当者・責任者に日本語がわからない人材を配置することはできない、ということです。経理の仕事内容を考えると、日本語がわからないと成立しないであろう業務がいくつかあります。例えば、仕訳一つにしても日本語で書かれた請求書や領収書が読めないと仕訳は出来ません。外資系企業の書類はすべて英語なのかと言うとそんなことはなく、日本語の書類も当然あります。そうなると、経理の偉い人(上司や部長)も日本人であることがほとんどで、日本人同士で経理の業務を行うにあたって英語を話すなんてことはないでしょう。

では、どういう時に英語が必要なのかというと、よくあるのが海外の親会社・グループ会社の経理担当者とコミュニケーションを取る時です。多くの外資系企業は、毎月の経理の成果(数字)を親会社に報告しています。報告は数字のみの単純なことも多いですが、何か質問があった場合には当然英語で説明することが求められます。また、海外の親会社・グループ会社との間で何か取引が発生することも多く、その場合にも英語でやりとりをすることになります。それを経験の浅い経理担当者がするのかある程度経験のある人が担当するのかは会社によって異なります(基本的に偉くなるにつれて英語力が必要になります)が、タイミングとして最も頻繁に英語が必要になるのはこのような場合でしょう。あと英語が必要な場面としては英語で書かれた書類(契約書、請求書等)を読む、外国人社員に経費精算に関して何か質問等をする(レシートが足りない、申請がない)などがあります。

あえて具体的な資格名の話をすると、基本的にはTOEICでいいと思います。TOEICはガラパゴスな資格で外国人は知らないこともあるでしょうが、先ほど述べたように経理の偉い人は日本人がほとんどなのでTOEICで問題ないです。必要なスコアは会社によるのでなんとも言えません。

結論としては、必要な英語のレベルは会社によってかなり違うのでなんとも言えず難しいところですが、他のスキルと比較すると実はあまり重要ではないことも多いのではないかと思います。簿記の知識がないと仕事が成立しないことはあり得ますが、英語が出来なくても意外となんとかなったりもするものです。

 

エクセルを中心としたPCスキル

今はどの仕事もそうですが、PCを使用する頻度は経理もかなり高いです。PCスキルにも色々ありますが、経理として必要なのは①エクセルと②会計ソフトだと思います。まずエクセルスキルに関してですが、経理では本当に様々な場面でエクセルを使用します。先ほど述べた親会社に対する毎月の経理の成果(数字)も多くの外資系企業はエクセルを使用しています。エクセルを経理の仕事に使用しない国はおそらくないでしょうから、会社全体の数字の取りまとめにも便利なんだと思います(通常、色んな国に子会社や支店がある会社は世界全体で経理の数字がどうなっているのかを見ています)。ただ、具体的にどのくらいのレベルのエクセルスキルが必要かと言うと、正直そこまで高いレベルは求められていないと思います。関数で言うと、SUM、SUBTOTAL、VLOOKUP、ROUND(DOWN, UP)、などはどの会社でも必ず使用していると言ってもいいです。あとはピボットテーブルも経理の数字を効率よく集計する上では必要になります。マクロは会社によっては使用している会社もありますが、そこまで必要とはされていないようです。このくらいなら大したことないと思われるかもしれませんが、もう一つ大事なこととして「想像すること」を挙げたいと思います。これは、経理業務でエクセルを使う際に、「どのような業務がエクセルで可能か」ということを想像することです。先ほど述べたように、エクセルを使用する場面は本当に多岐に渡ります。そうなると、業務効率化や業務を正確に行うためにエクセルがどのようなことに使えるのか、ということを考えることができる能力が大事ではないでしょうか。それも一つのエクセルスキルです。

次に会計ソフトですが、正直会計ソフトも様々で会社によって使用しているソフトは異なり、また、外資系企業は世界全体で海外製のERP(会計ソフトに他の管理業務の機能を加えたようなもの。日本で言うとFreeeやMFクラウドが近いです)を使用していることも多く、そうなるとその会社で使用している会計ソフトを使ったことがない人も多くなります。私は会計事務所という立場上、様々な会計ソフトを使ってきましたが、そういう経験を積むと新しい会計ソフトを使う時も比較的スムーズに使えるようになります。会計ソフトには共通して搭載されている機能というものがあり、海外製だろうと日本製だろうとある程度は共通だからです。会計事務所の人間でないと色んな会計ソフトを使用することは難しいですが、会計ソフトを含むPCのソフトウェアがどういう仕組みなのか、どういう使い方があるのか、といったことを普段から興味を持って試したりすることも大事ではないかと思います。会計ソフトも日々進化していますので、経理業務とPCは親和性も高く、必要なPCスキルも変化しています。PCスキルは今後より重視されることは間違いないでしょう。

ちなみにですが、主にクラウド会計ソフトの普及により、エクセルのスキルの重要性は(PCスキル全体から考えると)ある程度低くなってくるのでは無いかと思います。毎月の親会社への報告も今後はクラウド会計ソフトにより行われ、エクセルを使用する機会も少し減るような気がします。(クラウド会計ソフトについてはこちらの記事もどうぞ)

 

まとめ

必要なスキル・経験は会社によって異なることも多いですが、経理の仕事というのは、(言葉が共通言語であるのと同じように)ある程度共通していることも多いです。今回紹介したスキルは外資系で経理の仕事をしていくのであれば評価されるスキルであることは間違いありません。外資系企業は日本の会社と比べると入れ替わりもそれなりに多く、転職の機会も多くなることから、これらのスキルを磨いておくことは必ずプラスになるでしょう。今後外資系企業で経理の仕事を考えている方の参考になりましたら幸いです。